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notatione digna?

岡山大学でドイツ地域を中心に西洋史(中世史)を研究している大貫俊夫のブログ。

ドレスデン滞在開始

ご無沙汰しています。年度末にあたり、1年間色々な方にお世話になったと深く実感する日々を送っています。心より感謝。

今年度は、研究面では結局新しい論文も書けず、小論1本、研究発表1回、講演1回で終わってしまいました。研究会の類には文字通り「一切」参加せず、はたから見ると岡山に閉じこもっているように見えたかもしれません。実際はそう単純な話でもないのですが、とはいえどうせ自分の研究発表はできないし、旅費3〜4万かけて人の研究を聞くくらいなら体を休めつつ家族との時間を優先しようと思ってやっていたのは事実です。それでなんとか乗り切れた一年でした。年度頭、これは絶対に体を壊すと確信していたのですが、これなど体を動かすようにしたおかげで大きく体調を崩すこともなく本当に良かったです。

一方で、どうせ岡山にいるのならと、学内に乱立する委員会やWGに、声がかかるままに参加していました。とりわけ大学教育のあり方について、あるWGでは30年後を見据えた議論をし(このニュースに関連します)、あるWGでは入試制度改革について議論をし、あるWGではTA制度改革について議論をしました。このTA制度改革については、今年度から文学部で本格始動した「人文学インタラクティブ講義」の試みの中で、TA・SAは一体どうあるべきかじっくり考えてきたのが大きかったように思います。3月頭、「人文学インタラクティブ講義」の提言書をまとめて某委員長に提出したのですが、ファイルを受領したという連絡もなく、一体どうなったのでしょうね。まあいいけど。

そういう1年を過ごし、最後の最後にドイツのドレスデンに降り立ちました。半年とちょっとの間、ドレスデン工科大学にある比較修道会史研究所で研究させてもらいます。科研費の国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)という制度で実現したのですが、これについては僕らが1年目ということもあってあまり情報がありません。その独特の制度設計、そしてこの予算で僕が何をやろうとしているかについても、おいおい書いていけたらと思います。

フィリップ・ドランジェ『ハンザ 12-17世紀』

お世話になっている方々から相当数の本を頂戴しているにも関わらず、なかなか目を通すこともできずにご無礼・不義理を通しておりました。この間出版されたヨーロッパ中世史関連の専門書のうち、まず本書を取り上げておきたいと思います。献本ありがとうございました。

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フィリップ・ドランジェ/高橋理監訳『ハンザ 12-17世紀』みすず書房、2016年

共訳者:奥村優子、小澤実、小野寺利行、柏倉知秀、高橋陽子、谷澤毅

 

 ハンザ史の基本書Philippe Dollinger, La Hanse (XII-XVIIe siècle), Paris 1988の全訳。これで(ようやく)ハンザの基本的な知識をおさらいすることができます。ドランジェはアルザス史やバイエルン史で多く研究を残していますが、あとがきを読むと、ハンザ史に関しては限られているとのこと。これには少しばかり驚きました。

 

ハンザ 12-17世紀

ハンザ 12-17世紀

 





ファジアーノ岡山シーズン終幕にあたり2

年末に書いていた記事をアップするのをすっかり忘れていました。

1月13日現在、岩政、矢島、中林が抜け、そこに湘南から大竹、松本から喜山、清水から石毛、城南FCからチャン・ソグォンが来ることが報じられ、ストーブリーグもほぼ終わった状況です。

ファジを「中に入って」追いかける理由は、ひとえに岡山の人や地域を身をもって感じたいというのがあるからです。外から観察するだけでは難しい。得点・失点の際に、隣に座る見ず知らずの方と間髪入れずハイタッチをしたり、「あーあ・・・」と目を合わせる。そしてその時の感情とともにスタジアムの向かいにある成田屋で、鳥酢を食べながら知らない人と分かち合う。翌朝の山陽新聞に目を通す。やや誇張した表現になりますし、思い込みかもしれませんが、そこには等身大の岡山がある気がしています。

ファジアーノ岡山は、岡山を象徴しています。岡山に来てもうすぐ4年になりますが、この土地には目に見えないポテンシャルがしっかり眠っています。が、なかなか目に見えない。爆発しない。ファジの成長の仕方がまさにそれで、J2で7年かけてゆっくり順位を上げ、今回プレーオフに初めて出ることができましたが、それも終盤あわや叶わずというところまで順位を下げての6位通過。松本のようにいきなり自動昇格することもなく、プレーオフの2戦も、挑戦させてもらっています、というスタンスを崩しませんでした。案の定、J1の風格を残すC大阪に完敗して来年もJ2で再チャレンジです。

興味深いのは、爆発的に上昇していこうというのではなく、着実に力をつけ、選手を育て、愛していこうという姿勢がフロント、チーム、サポーターに共通して見られるところです。この3者が揃っているところがとても大切だと思っていて、その一方で、時間の流れ方は正直なところ僕自身の方がかなり速い。気が短くせっかち、ということ。しかし、時として自分の速さにうんざりすることがあります。スタジアムは、行き過ぎた自分を省みる絶好の場だと感じています。

ファジアーノ岡山2016シーズン終幕にあたり1

スポーツ系の話題が続いて申し訳ありません。

先日のプレーオフ決勝で敗れ、ファジアーノ岡山の今シーズンは幕を下ろしました。

今シーズンはホームゲームは1試合を除いて全て、アウェイは山形、松本、C大阪戦に行くことができました。アウェイはもう少し行きたかったのですが、仕事などの都合で断念しました。山形と松本はいずれも岡山からの交通の便がいいとは言えませんが、温泉宿に泊まり、観光を兼ねてとても楽しめました。

よく、サッカーはもともと好きなのかと聞かれます。ドイツに留学していたと言うと、ではその時も観戦していたのでしょう、と指摘されます。しかし、今から考えるともったいなかったのですが、そんなことは全くありませんでした。なぜサッカーにろくに興味のなかった自分がここまで岡山の、よりによってJ2のチームを追いかけているのか、と不思議がられる方もいるようです。

つまるところ、僕は勝ち負けがはっきりする勝負事が好きなのですね。幼稚園の頃は碁会所に通って年配の方と囲碁を打っていましたし、学校ではわかりやすい尺度で競争を強いられます。留学してからは将棋にどっぷりのめり込み、将棋倶楽部24でR1100くらいまでにはなり、今は名門岡大将棋部の顧問をやらせてもらっています。

サッカーもそういうところがあって、もう試合か終わるなと思っていても状況は常に流動的で、良くも悪くも勝ち負けが容易にひっくり返るカタルシスはなかなか味わえません。野球もサヨナラホームランでひっくり返るスポーツですが、一息入れる余裕が頻繁にあるので少し違います。サッカーの方が集中を余儀なくされるので見ていてずっと緊張しっぱなしです。それがまたいい。

そう、勝負事は緊張します。そしてその緊張感はイマココデナイ感に繋がり、十全たる現実逃避が可能になります。緊張感アディクション。ちなみに、前エントリーのランニングも僕にとって現実逃避の手段ですが、あれは肉体を酷使することで脳は回転を限りなく止め弛緩に至るので、サッカー観戦とは逆のベクトルかもしれません。中世ヨーロッパの鞭打ち苦行団は宗教運動としてとても合理的なのだと身をもって感じます。

サッカーは現実逃避の格好の手段ですが、テレビで見ているだけでは不十分です。やはりスタジアムに実際に足を踏み入れるのは違いますね。一旦スタジアムに入ると、非日常の閉鎖空間が広がります。そして、眼前で繰り広げられる非日常的なスペクタクルに集中するだけで、それまで雑事・無理難題に向かっていた気持ちがキャンセルされます(雑事そのものが消え去るわけではない)。先日職場のストレス・チェックの結果が出ましたが、おかげで問題は全くありませんでした。幸せに生活できています。

サッカー観戦をする自分を振り返るエントリーはここまで。サッカーネタはしばらく続きます。次は岡山という地域との関係で少し書きます。

おかやまマラソン2016

大変ご無沙汰しております。今年はブログを書く心理的余裕がなく随分ほったらかしにしています。ぼちぼち復活させたいので、枕としてマラソンの話題を。西洋史は関係ありませんので悪しからず。

おかやまマラソンに応募

今年の4月の段階で仕事が激増し、肉体的・精神的にうまくいっていないと実感したことから、一念発起、「おかやまマラソン2016」に応募してみました。もともと気が短く長距離走が大嫌いだったのですが(いまでもそうです)、状況を打開するにはこれしかないと直感したのでした。直感は裏切りません。

応募結果は、まず5月17日付のメールで「県民枠」落選。この件について忘れかけていた6月21日、再度メールが来て「一般枠」で当選しました。これで腹をくくるしかなくなり、今年の暑い夏はランニングとともに過ごすことになります。

練習について

距離やタイムの測定のために用いているアプリはこれ。

www.nike.com

途中でバージョンアップして使い勝手が変わったことから、10月に入るとこれが提示するプランに従うのをやめてしまいました。他にRunkeeperなど有名なアプリはありますが、これが一応Appleの準純正アプリのような位置付けなので、今後また使っていこうと思っています。

今回、アプリの記録によると当選通知以降月ごとに以下のようにトレーニングしてきたようです。

6月 7ラン 23.36km

7月 24ラン 138.5km

8月 25ラン 148.1km

9月 18ラン 75.00km

10月 19ラン 144.9km

11月 4ラン 26.33km

一度ランニングの先生に教わり、そこで月100km走っていればフルマラソンは完走できるとおっしゃっていました。おおよそそれを実践したわけですが、9月はドイツ出張のため、10月は出張などのため思うように走れなかったことが心残りです。

10月中に10km走れるようにして、1回20kmを走れることを確認、11月に入って2回10km。本当は1度は30kmを走っておきたかったのですが、仕事のリズムとの兼ね合いで実現できず。これが大会当日のアクシデントを引き起こすことになります。

ランニングウェアと携帯品について

空前のランニングブームゆえに、巷では無数のランニングウェアが売られています。売り場に行くと頭がクラクラしてくるのですが、僕は自他ともに認めるドイツ派なので、迷わずadidas製品を集めていきました。たまたま出張中に見つけた以下のお店がとても有用でした。

アディダス ブランドコアストア | 六本木ヒルズ - Roppongi Hills

アディダス製品のいいところは、シルエットがスッキリしていてかっこいい点です。サッカーでいうとドイツや日本代表のユニフォームがアディダスですが、個人的にドイツのアウェーユニが好きです。

11月13日当日は晴れ予報で、日中は20度近くまで上がることが予想されました。そのため、以下のような肘まで隠れるくらいのコンプレッションウェアを下に着て、あとはTシャツと半ズボンで十分でした。これを下に着るというのは、同僚で同じくおかやまマラソンを走った先生から得た情報のおかげ。お世話になりました。

 さらに帽子とウェストポーチは必須。ウェストポーチにはジェル×3と塩飴を入れておきました。

ザバス ピットイン エネルギージェル ウメ風味 69g×8個

ザバス ピットイン エネルギージェル ウメ風味 69g×8個

 

このジェルは、事前に試した時はなんて不味いんだと思いましたが、走っている時は特に問題なく、むしろぎゅっと握って一瞬で摂取できるのでとても便利でした。給水所の直前で飲み、スポーツドリンクないし水で口をスッキリさせればOK。塩飴は走っているとエイドで何回か塩が出てくるので不要だったような。

あと、ゼッケンは安全ピンで留める仕様ですが、ウェアに穴を開けたくなかったのでゼッケン留めを使用しました。

ゼッケン留め 楽ピタ(白)

ゼッケン留め 楽ピタ(白)

 

 

おかやまマラソン当日

当日は走る格好で自転車に乗り会場へ。荷物は預けません。トイレに行ってから指定されたDゾーンへ。自己申告によるものですが、後ろにEゾーンがあり、さらにファンランを走る人用のFゾーンが。 運動公園脇の国道が人で埋め尽くされました。

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 最初はゆっくりでしたが、だんだん1km6分15秒くらいのペースで走れるようになってきました。練習ではこれくらいで走れればいいかなと思っていたので油断していたのですが、17kmくらいの地点で左膝に痛みが。予想外でした。

結局これがひどくなり、25kmくらいのところで一気にペースが落ち、ストレッチしながらだましだまし走って、結局5時間39分でゴール。もちろん完走が目標だったので嬉しかったのですが、5時間は切りたいと思っていたのでちょっと不本意な結果に終わってしまいました。

膝の痛みは翌日腸脛靱帯炎だと判明しました。いわゆるランニング障害。

www.zamst.jp

膝周りの筋力不足、ストレッチ不足などいろいろ考えられますが、これからは練習の仕方を工夫しなければと反省しています。とにかく僕は体が大きく体重もあるので、いかにもランニング向きのシュッとした体型ではありません。膝にものすごく大きな負担がかかっていますので、膝周りのトレーニングは意識的にやっていこうと思います(あともう少し痩せたい)。

 とはいえ、走っている時は沿道の応援に助けられました。本当に途切れないのですね。また、ボランティアの方々がやっているエイド(給食、給水)も十分に堪能しました。全部立ち寄って食べたと行ったら呆れられましたが、きびだんごなどの岡山名物がどっさり並んだエイドは大変充実していました。

therun.jp

しかしその中でも30kmあたりの難関岡南大橋を渡ったところに展開されていたラーメンの屋台×5は圧巻の一言。足が痛くてもう走りたくないと思いつつ、これだけは立ち寄ってきました。狙っていた小豆島ラーメンが調理中だったため薄めの豚骨ラーメンを選んだのですが、 塩味がたまらなく美味しかったです。

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しかしこのあと、旭川沿いを北上するのはもうひたすら地獄。亀の歩みで(ほとんど歩いているのと同じスピード・・・)シティライトスタジアムに到着。ゴールした時は流石に感無量です。

フルマラソンを走ってみて

初めてのフルマラソンは、想像をはるかに超えて大変でしたが、家族の支え、岡山の人たちの支えもあって無事完走することができました。走った翌日までは全身痛く、もう二度とやりたくないと思っていました。がしかし、あれから1週間、足の痛みも引いてくると、あれ、おかしいですねぇ・・・体がムズムズと(笑)。

というわけで、次はこのマラソン大会に出場しします。ちょっと色々な縁もあり、そして何より地震に見舞われ熊本城を初め大きな損害を受けた熊本。とても気になっていたので、エントリーしてみました。はたして完走できるのか、5時間を切ることができるのか。週明けからトレーニングを再開しますので、またどうぞよろしくお願いします。

www.kumamotojyo-marathon.jp

 

 

2016年度第1,2学期の授業について

岡山大学では学年暦が大幅に変わり、4学期制になりました。そのため今年はあらゆる日程が前倒しになっていて、昨日の4月1日に新年度のガイダンスを終え、来週の月曜日から授業開始です(その代わり7月一杯で授業終わり)。なかなか気持ちがついていかないですが、今年度もよろしくお願いします。

1,2学期(4〜7月)に行う授業について、ざっと紹介していきます。今学期は講義を持たないのでかなり楽ではあるのですが、演習をしっかりやっていきます。

 

①西洋史演習(木3,4限)

対象者は、ドイツ史(〜現代)で卒論を書きたいと決めている人から、ドイツ語はこれから頑張るという人、そして中世史に関心がある人など、なるべく多くの人に門戸を開いています。例年ドイツ語未修者も何人かいますが、やる気次第でかなり読めるようになります。

2本の柱があって、前半60分はドイツ語のテキスト講読。西洋中世都市に関する入門書(Felicitas Schmieder, Die mittelalterliche Stadt, Darmstadt 2005)を精緻に読んでいきます。後半60分は歴史地図を用いたグループワーク。昨年、『中世ドイツ都市地図集成』を購入したので、これをフル活用します。少人数のグループで一つの中世都市を担当し、その歴史や施設の成り立ちなどをドイツ語を読んでまとめてもらいます。西洋史ではなかなか現地に赴いてフィールド調査をするというわけにはいきませんが、こうした種々の仕掛けを用いることでヴァーチャルなフィールド調査をしていきましょう。

 

②西洋史演習(金7,8限)

これは中世史演習です。対象者は中世史で卒論・修論を書きたい人。そのため大学院生も出席してもらいます。前半の60分で共通のテキストを読んで、後半60分で各々の研究発表をします。共通のテキストとして、夏休みまでは以下の本を読むつもりです。

 

西洋中世学入門

西洋中世学入門

 

 

 『シカゴ・スタイル』の方は去年から関心があったので、学期末に水準の高いレポートを書いてもらうために学生と一緒に読むことにしました。

 

以上の授業に加えて、4年生の卒論指導用の授業があります。いずれにせよ、岡山大学で始まる「60分」という授業の枠をうまく活用してみたいという考えから構想してあります。実際にどういうことになるのか、またご報告します。

アレフレート・ハーフェルカンプ教授講演会

この度、ドイツ・トリーア大学のアルフレート・ハーフェルカンプ教授を招聘し、講演をしていただく運びとなりました。先生に初めてお会いしたのは確か2004年。そこから博士論文のご指導をいただき、かれこれ12年が経ちました。そのようにお世話になった先生を日本にお呼びできて大変嬉しく思います。

招聘主体は、早稲田大学の甚野尚志先生が主宰されている科学研究費補助金(基盤研究A)「中近世キリスト教世界の多元性とグローバル・ヒストリーへの視角」です。以下に紹介する2回の講演のほか、京都大学でも学術交流を図るイベントが開催されるようですので、ぜひ足をお運びいただければと思います。

すでに講演原稿は手元にあるのですが、中世ヨーロッパにおけるユダヤ教徒キリスト教徒の関係史について、非常に丁寧に、かつ新しい視点から論じていただきます。日本では、宗教学であればともかく、歴史学の分野でユダヤ人を扱う研究者はさほど多くありませんし、研究成果もまばらな印象を受けます。今回の講演が大きな刺激となることを願っています。

言語は英語で、とても丁寧な英語のハンドアウトも配布しますので、ドイツ語がわからなくても大丈夫です。いずれか1日でもご参加いただけたら嬉しいです。

 

アレフレート・ハーフェルカンプ教授講演会(1)
主催:科研・基盤(A)「中近世キリスト教世界の多元性とグローバル・ヒストリーへの視角」
共催:比較都市史研究会

日時:2016年3月18日(金)午後2時から5時30分
場所:早稲田大学戸山キャンパス39号館5階第五会議室

司会: 甚野尚志(早稲田大学
講演:Alfred Haverkamp
"Research Trends concerning the History of the Jews in Medieval Western Europe"
コメント:関哲行流通経済大学

 

アルフレート・ハーフェルカンプ教授講演会(2)
主催:科研・基盤(A)「中近世キリスト教世界の多元性とグローバル・ヒストリーへの視角」

日時:2016年3月19日(土)午後2時から5時30分
場所:早稲田大学戸山キャンパス39号館5階第五会議室

司会:大貫俊夫(岡山大学
講演:Alfred Haverkamp
"The beginnings of Jewish life north of the Alps, with comparartive glances at Northern and Central Italy (c. 900-1100)"
コメント:踊共二(武蔵大学

2015年度後期教養科目「ヨーロッパ中世史と現代日本」について

はじめに

  • 2015年度後期に初めて教養科目を担当しました。内容に歴史が織り交ぜてあれば基本的に何をやっても良いので、以前から試してみたいと思っていたやり方を導入することにしました。これが個人的にはとても上手くいったと感じたため、この記事でそれを授業の一つのやり方として提案してみます。
  • この授業の特徴は、大きく「内容」、「課題」そして「配点方法」とに分けて説明できます。そしてこれは歴史以外の専門でも応用が利きますので、もし関心を持ったら試してみていただければと思います。ただし、授業によってどういう履修者がいるかはまちまちだと思います。本授業は、ある一定の条件の履修者が集まった時に効果を発揮します。まずはその条件から考えていきましょう。

条件

  • この授業の履修者は、様々な学部の学生から構成されている方がよいです。総合大学はたくさんの学部から成り立っていますが、学部によって、そもそも大学は何のためにあるのか、授業とはどういうものであるのか、学生はてんでバラバラの考えを持っています。本授業では、そうした多様な参加者が自由に集まり、互いに刺激しあうことがとても大切になります。だからこそ、今回教養の授業を活用したわけです。案の定、文学部から医学部まで、少し文学部生が多いものの、とてもバラエティに富んだ学生が集まってくれました。
  • もう1つの条件は、大学に入りたての1年生が主体の方が良い、ということです。パワーポイントを使ったプレゼンの仕方、授業での発言の仕方、そしてレポートの書き方などがまだ身についていない状態の方が、教員として活躍の機会が多いでしょう。
  • 一般的に授業の形式は講義形式と演習形式がありますが、本授業は講義形式で、履修者は50人を超えました。以下、内容だけを見ると演習形式なのではないかと思われがちですが、ある程度履修者が多くても対応できるというのがこのやり方の利点の一つです。ただし、100人以上は多すぎるので、その場合は通常の講義をして座学してもらったほうがいいでしょう。

内容

  • 授業の各回は、以下の要素で成り立っています。
    • 担当教員によるレクチャー:今回はシーリア・シャゼル編著『現代を読み解くための西洋中世史』(明石書店、2014年)の各章を解説。以下に示したように、現代の問題につながる、社会的かつ論争的なテーマが扱われています。
      • 「犯罪と罰
      • 「拷問と真実」
      • 「社会的逸脱」
      • 「結婚」
      • 「同性愛」
      • 「性的なスキャンダルと聖職者」
      • 「労働」
    • 参加者によるディスカッション:レクチャーで扱ったテーマを踏まえて、現代日本の問題を4人くらいずつに分かれて議論してもらいます。時間があるときは「ワールド・カフェ」形式を援用し、複数回のセッションを導入します。ただし、今回はディスカッションに割ける時間が少なかったのが反省点として挙げられます。あと、教室が講義用だったので、机・椅子を自由に動かせませんでした。しかし、それはあまり本質的ではありませんので、本授業は講義用教室で十分対応可能です。
    • 参加者によるプレゼンテーション:前回扱ったテーマに即してこちらからお題を出し、1つのテーマについて4〜5人を募集(それ以上集まったら2組に)。ただし、みな学部が違うため、日常的に顔をあわせるのは不可能です。そのためLINEのグループを作ってもらって、情報共有できるようにします。1週間の準備の後、1組10分くらいで解説してもらいます。結局23グループが自発的に発表してくれたのでとても良かったのですが、反面、時間をずいぶん食ってしまいました。
    • 教員との質疑応答、コメントシート記入
  • 重要なのは、担当教員のレクチャーはあくまでディスカッションおよびプレゼンテーションに入るための枕に過ぎない、ということです。教員の解説がメインになるとただの「講義」になってしまうので、そこからは距離を置き、参加者が何かしら喋っている時間を最大限確保します。
  • ディスカッションやプレゼンテーションでは、あくまで現代の諸問題を扱います。西洋中世史について議論してもらっても無為に時間が過ぎゆくだけですので、例えばレクチャーで中世の聖職者による同性愛について話したら、現代の同性婚の問題、渋谷区のパートナーシップ、それへの抵抗運動など、テーマを細分化して議論をしてもらいます。
  • 授業の進行についてですが、例えば上で挙げた「同性愛」など、1つのテーマについて認識が十分深まったと思ったら、次のテーマに行きます。そのため、授業1回につき1テーマをこなす必要は全くありません(しかしこなした方が学生の受けは良いでしょう)。
  • これは経験的に確立したものですが、1回の授業はおおよそ「前回のテーマに関するプレゼンテーション」→「新しいテーマに関するレクチャー」→「新しいテーマに関するディスカッション」の順で進行します。

課題

  • 中間レポートと期末レポートを課します。それぞれ提出後すぐに採点し、散見される間違いなどを次回指摘します。
  • 期末レポートの締め切りは2段階用意しました。授業の最後から2回目の日までに提出してもらったものは、最終回で講評し、赤を入れたものを返却します。最終回の日に2回目の締め切りを設け、こちらは、1回目の締め切りまでに出してもらったものより配点を10点下げます。岡山大学の学生の場合、大半が1回目の締め切りに間に合わせてくれます(読むのが大変です・・・)。

配点方法

  • 配点方法は以下の通りです。
    • 自発的な発言(1点〜):「発言ルール」として、①1回発言したら1点(コメントシートで自己申告)、②同時に手を上げたら前に座っている人を優先、③発言による点数に上限なし
    • グループでのプレゼンテーション(1回につき10点)
    • 中間レポート(10点)
    • 期末レポート(50点or40点)
  • ここで特徴的なのは、自発的なアクションにどんどん加点していく点にあります。何か発言したら1点。プレゼンをしたら10点。これらを天井を設けず与えていきます。そのため、期末レポートを待たずしてすでに80点を超える人が出てきました。逆に言えば、自発的にアクションを起こさなければ、レポートで満点をとらない限り単位は出ません(つまり事実上落とす)。
  • 毎回コメントシートを提出してもらいましたが、それそのものには加点していません。つまり、出席点はゼロ。コメントシートは、学生の理解度や関心のありかを知るために、そして発言回数の自己申告のために出してもらいました。
  • 特にこの発言ルールは、塩澤一洋先生がお書きになっているブログshiologyの記事(3661-140430 講義開始前に座席が前から埋まる教室の仕組み)を参考にさせてもらいました。ここに書かれているやり方はどれも共感するものばかりです。
  • その他のルールとして、①人に迷惑がかからない限り飲食自由、②すぐ調べられるようノートパソコン、タブレットスマホなどを出しておくこと、の2点を提示しました。

問題点

  • やはり学生にはそれなりの姿勢が求められる授業であろうと思われます。基本的に「授業に出なくても単位」、「授業出たとしても後ろの方でスマホいじっていても単位」・・・という類の授業に人気が集まるものです。それが学生の心理であることは承知しています。しかし、この授業はそういう学生を最初から排除します。そのため、あまり寛容ではないという点が本授業の最大の問題点でしょう。
  • 学生は常にアクティヴさを求められます。配点にそういう工夫があり、参加者は初回にそれを見抜けたかどうかが試されています。うまく見抜いて「あ、これは楽ではない」と思った人はよその授業に行ったことでしょう。
  • 点数の集計は、TAのお手伝いなしには不可能でした。
  • あと、中国人留学生が7人ほど履修していました。日本語でのディスカッション、プレゼンテーション主体の授業は辛かろうと思いました。しかし、例えば死刑制度や労働問題について、中国ではどうなっているのか報告してもらったりして、日中の学生同士とても勉強になったのではないでしょうか。「大学のグローバル化」の意義を初めて実感しました。

試してみて

  • 「人を選ぶ」授業形式だったにもかかわらず、最終的に80人が履修登録し、うち50人に単位を出すことができました。常にアクティヴに参加してくれていたのは30人くらいでしょうか(出席点は取らないので、それなりの人が休みます)。つまるところ、この30人は好奇心が強く、積極的に発言をし、巧拙はありますがある程度の水準の文章を書けます。きっと今後も各学部で活躍してくれるのではないかと思い、そういう学生たちと濃密な水曜1限を過ごせたのはとても幸せでした。
  • こうした形式に抵抗感がある先生もおられると思いますが、座学が圧倒的に多い講義形式の授業でもこういうことができますよ、というご提案でした。フィードバックを頂戴できると嬉しい限りです。